プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
愛のうたの絵ほんは、高畑耕治の詩と詩集の海です。
Profile 高畑耕治 たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪府四條畷市出身、早稲田大学政経学部中退。東京都多摩市在住。
詩集『銀河、ふりしきる』(2016年5月イーフェニックス)
詩集『こころうた こころ絵ほん』(2012年同上)
詩集『さようなら』(1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25)
詩集『愛のうたの絵ほん』(1994年同上)
詩集『愛(かな)』(1993年同上)
詩集『海にゆれる』(1991年土曜美術社)
詩集『死と生の交わり』(1988年批評社)
雑誌「エヴァ」に扉の詩(1996~1997サンマーク出版)を連載。
リンクのホームページ
でも作品を発表しています。

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細野幸子の詩(四)。あわゆき。詩。こころ。いのち。

 前回に続き、詩人・細野幸子の詩をみつめます。最終の今回も第3詩集『あの日の風に吹かれて』(2002年、あぜん書房)に咲いている、私がとても好きな詩の花にします。

 このいちりんの小さな花の笑顔に、詩の本質が輝いています。

 詩が感受性から生まれる子どもだとささやいてくれます。
 花びらのような詩句のきらめきに、色彩の鮮やかさ、手触り、舌触り、やわらかさ、冷たいあたたかさ、五感がいっぱいに呼び覚まされます。
 感情の揺れ動きも、風になびく姿のようにとてもゆたかです。こころぜんたいが、不思議になって、驚いて、嬉しくなって、静かに想い、みつめ言葉なくし、ゆらめきます。

「いっしゅん」の想いが溶けてゆくのは、永遠です。
 はかなさを痛いほど感じとる感性は、遥かな永遠にふるえています。

「信じられないほど本もので / いたいほどしんじつなのに」
「ゆめのようにとけて / うそのようにきえた」

 この詩句は、あわゆきを歌いながら、まるで詩を歌っているよう、人のこころ、いのちを歌っているようです。
あわゆき。詩。こころ。いのち。 美しく響き、ひかっています。
 やわらかくやさしくあたたかいひびき。いたいほどしんじつの、うつくしい、こころのことば。
 ゆめのよう、うそのように、はかなく、いっしゅんにきえてしまうから、かけがえのないもの、えいえんのこども。

 「あわゆき」は古事記から歌われ生き続けてきた美しい言葉。

 あわゆきのわかやるむねを。女性の乳房の美しさを歌っています。

 私はあわゆきが好き、詩が好きです。


  あわゆき
           細野幸子


ゆき
ゆき ゆき
本当に
ほんもののゆきだろうか

ふわふわ
さわってみる

キラキラ
みつめてみる

ひやひや
ほおばってみる

つめたさが、からだの芯にジーンとしみて
地球のそこをつきぬけた

信じられないほど本もので
いたいほどしんじつなのに

うれしさのあまりほんのいっしゅん
ひとみをうるませたそのすきに

――どうして?

ゆめのようにとけて
うそのようにきえた


 ☆ お知らせ ☆
『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。

 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。

    こだまのこだま 動画
  
 ☆ 全国の書店でご注文頂けます(書店のネット注文でも扱われています)。
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tag : 詩人 高畑耕治 細野幸子 詩集

細野幸子の詩(三)。愛。願い。歌。

 前回に続き、詩人・細野幸子の詩をみつめます。今回は第3詩集『あの日の風に吹かれて』(2002年、あぜん書房)に咲いている、私がとても好きな詩の花にします。

 詩「あの日の風に吹かれて」を私が好きなのは、愛の詩だからです。
 「わたしがいちばんつよく愛されていた」という詩句はとても真実で、母親の気持ちですが、子どもの気持ちを感じとることができる母親だけが言葉にできる母親の気持ち、ほとんど「つよく愛しあっていた」と同じ強さと温かさがあふれている詩句です。
 
 あふれだした思いが織りなしてゆく二連は、冒頭の
「まるい地球のてっぺんで」という詩行で、詩の世界をまず、宇宙の大きさにまで広げます。
宇宙の中の小さな星のひとりのぼうや。
ぼうやをつつむのは、多くの人の胸のうちに隠されている優しさ、海のように深く広がりのあるゆたかな愛だと、美しい次の詩句で鮮やかに浮かびあがらせます。
「せかいじゅうのおかあさんがへんじをする」
 もちろん、この地上では、ぼうやがよんでも、振り返らない、無視する、うるさいと黙らせようとする、虐げてしまう人さえ、いま大勢いるのを知っているからこそ、作者が詩のシャボン玉に映し見せてくれる夢、願いの世界です。
 作品は、三連で願いそのもの、祈りに近い歌にまで、美しく高められてゆきます。
 詩は願い、美しいひかり、歌となって、心に宿ります。耳を澄ませば、いつでも聴きとることができる、きえることない愛の歌だと、この作品は教えてくれます。
 
  あの日の風に吹かれて
           細野幸子


どこかでぼうやが
「ママー」ってよぶと わたしは
つい立ちどまり ふりむいて
いそいそとへんじをしてしまう
わたしがいちばんつよく愛されていた
あの日の風に吹かれて
――なあに

まるい地球のてっぺんで
こえをはり上げぼうやがひとり
「ママー」ってよぶと
せかいじゅうのおかあさんがへんじをする
ひまわりみたいにくびをかしげて
――なあに

太陽のような声が
声が……声が
きんいろにすきとおり
風に吹かれて
ぼうやのうえにふってくる


 次回も、細野幸子の詩をみつめ詩想をしるします。


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tag : 詩人 高畑耕治 細野幸子

細野幸子の詩(二)。つばさ雲、かなしみと美。

 前回に続き、詩人・細野幸子の詩をみつめます。今回は第2詩集『三角公園で』(1994年、あぜん書房)に咲いている小さな花です。
 短い詩ですが、詩そのもの、純粋な詩を、感じていただけると思います。

 頭でっかちの詩人気取り屋や前衛自称の批評屋は、このような純粋な世界を、思春期の少女の夢想に過ぎないとあざ笑うかもしれません。でも、そのような賢く錆びた論理に涸れた思考や嘲笑に、詩心を失ってしまった貧しさを自ら曝け出している醜さを私は感じます。
 思春期の少女は素晴らしい詩人です、思春期の少女の夢想は詩です。女も男も生まれてすぐ詩人になります。
忘れてしまい、失くしてしまい、捨ててしまい、退行してしまうだけです。自慢できることではありません。

 詩心は、大切に抱き育てれば、失わずに、もっと深く豊かにしていくことができます。
 純粋で、はかない、それでもこみあげてくる思い。とうめいな、こわれやすい、飛んでゆかずにはいられない羽の、かなしみ。
 つばさ雲。
 ひとつの詩句に、想いははるか遠くまでひろがります。

 見つめずにはいられない景色を前にする時のように、短いこの詩句の世界に入ってゆくと、雑念と雑踏の日常の時間がなぜか消え、音のない、時が止まるほど静まってゆく世界に、息をとめて、佇んでいる心を感じます。
 その瞬間の音のない言葉を文字で綴ったら、きっとこんなかたちになります。
 うつくしい。
 詩は美。とても大切なことを、思い出させてくれる、とても好きな作品です。


  哀訴 ――雨のまちから風のまちへ
           細野幸子


部屋のまどから眺めています

目にみえるもののなかで
只ひとつ あの街へつづく空
ちぎれた雲が白くひかって
まるで 天使の羽のようです

  ――帰りたい
  うすむらさき匂うあのまちへ

与えたその手で この腕の中から
あなたがとりあげた わたしの
大切なものたちはどうしていますか
あきらめの底で見詰めています
ただ 空だけを

  鳥にもなれず
  風にもなれず

あたりがすこし夕暮れてきました
傾きはじめた太陽の真下を
つばさ雲がながれてゆきます
空のむねを燃えながら ひた走る
かなしみのようです

ああ かみさま
おおきく羽ばたけと 人間に
あなたが授けてくださった
とうめいな翼は あまりにも
こわれやすくて――


 次回も、細野幸子の詩をみつめ詩想をしるします。

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tag : 詩人 高畑耕治 細野幸子

細野幸子の詩(一)。詩のハンドベル。

 今回からの4回は、私のとても好きな、大切な詩を書く詩人を見つめ、詩想を記します。
 細野幸子(ほその・さちこ)の詩です。彼女は3冊の詩集を出版されていますので、それぞれから、私の好きな花を選びました。
 今回は第一詩集『ガラスの椅子』(1990年、北国帯)から、今日の日にふさわしく届けたい詩です。

 この作品をお読みいただけたら、私が彼女の詩をどうして好きか、わかっていただける気がします。
彼女の詩はどれも、私がいちばん詩だと感じる詩です。

 とても優しいやわらかなわかりやすい言葉、心の言葉、ささやき声に耳をくすぐられるような。
 そうなのに、歌詞でなく、詩なのはただ、詩心の純真さと、詩情の深さ、宇宙の音に耳を澄ます詩人のまなざしの、はるかさと、ふかさ、それだけでじゅうぶんだと、教えられます。

 はかなさに永遠を、あこがれ願い求めずにいられない心、愛する心、どこにかあるはずの美しいもの、ほんとうのもの。詩であるかぎり必ずこれらの詩心のかけらは言葉に織り交ぜられていますが、隠され見失われ感じられない作品のほうが多くおもわれる時代に、彼女はいつも変わらず、この詩そのものを純粋なままに、そっと奏でています。

  聖夜
           細野幸子

ハンドベルの
クリスマス・ソングが
綺麗だから
雪のひと夜を
共に過ごしませんか

ひとりぼっちのあなた

聴えませんか
星と星の触れあう音
宇宙のふきだまりで
星屑たちが震えながら
肩をよせあっています

消えてゆこうとする星に
願いをかけるのはやめにして
雪の夜
宇宙の音にそっと
耳を澄ましてみませんか
一瞬をまたたいて
いつの日か
私たちのかえってゆく
その深みに
何処かで
また星がながれて
ほんのすこし
闇がひろがったようです

この世のふきだまりで
震えているあなた
ふたつの淋しさを燃やして
せめて
聖なる今宵……


 細野幸子の詩はこちらの私のホームページでも3篇紹介していますので、お読みくださると、詩のハンドベルが心に美しく響き続けると思います。
「プリズム」収録詩集『ガラスの椅子』、「単純作業」収録詩集『三角公園で』、
「ゆきだるま」収録詩集『あの日の風に吹かれて』。


 次回も細野幸子の詩をみつめます。

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tag : 高畑耕治 詩人 細野幸子

崎本恵の詩(三)。詩情の花が目覚め。

 崎本恵(ペンネーム・神谷恵)が今年新しく公開した3詩篇をとおして詩想を記す最終回です。
 今回の詩は、とても濃密な詩情が込められています。とてもかなしくやさしく美しい詩世界がたちのぼります。
 この詩心にみちた響きが私の心の土に沁み入り宿ってくれたことで、私の心で詩の種が目を覚まし芽吹き花咲き、新しい詩「空の絵本」が生まれました。この木魂、詩心の交感を彼女は祝福してくださいました。
 詩と詩が呼び合い、詩情がゆたかにあふれひろがり、ひとの心に花が目覚めて美しく揺れ微笑みあうことを私は願ってやみません。

  いてくれるだけでいい

                 崎本恵


病棟の公衆電話の前には
夜になると傷ついた蝶がやってきます
密が流れる箱に群がるのですが
ふしぎなことに 真ん中の箱だけが
いつも空いています
きっとここを去る者だけが使うのです
羽を広げる姿はまぶしくて美しいのに
なぜ彼らは黙り込むのでしょう

どんな存在もあたたかい
寒い夜 私は一番端の電話機の横に腰掛け
明かりの灯ったいくつもの家を
病院の窓越しに眺めるのです

突然に 

帰りたい

無口だと信じていた蝶の泣き声は
それはそれはかなしいのです
君よ 真ん中でかけ直してごらん
花の匂いがするよ
密が流れてくるよ

ああ かみさま かみさま
間引きされた者の生きる時間は
深い闇のかなたにだけあかあかと灯っています
ここは たくさんのいのちが
ひとしきり降る驟雨のように
あっという間に通り過ぎるところ
さいわいな団らんを曇らせ
やがて朝の日に焼かれ
忘れられ 消えていくところなのです

涸れた箱
乳と密の流れる箱
私は夜ごとに電話機のそばに座り
自らは決してベルを鳴らさない箱に群がる
捕らわれた精霊たちの声を聞いて
そっと歌うのです

ちょうちょ ちょうちょ 菜の葉にとまれ
菜の葉に飽いたら 桜にとまれ

生きても舞い 死んでも舞う蝶たちの夜
とてもさむいのです
とてもあたたかいのです

***
(*高畑、注記:作品としての詩はここで終わりますが、続けて記されたブログの言葉も私は、ほとんど詩だと感じますので続けます)。

携帯電話のお陰で
電話ボックスは街中から消えつつあります。
でも、病棟には
乳と密と
そして涙の流れる箱が
いまだに存在しています。

下の写真のように、(*高畑、注記:ブログの写真は下のリンクでご覧になれます)。

「いてくれるだけでいいんだよ」

そう言ってくれるひとがいる
そんなひとは
なんと幸いでしょう。

たったひとりのあなたへ
私が祈っています。
あなたはいてくれるだけで
それだけでいいんです、

と。

 出典は、ブログ『遠い空へ』2012年10月31日です。

 これら3篇のほかにも、心から心へ手渡されてほしいと願う美しい心の花たちが、彼女のブログの野の土に根ざし芽吹き、咲き揺れています。
 ここには作品名だけを記しますが、私にとって、たとえば、詩「希い」「紅い星 蒼い星」「ゆずりは」「名前」「泥と珍女」「だから今日を」「娼婦」「独り」「哀耳(あいじ)」は、心を咲かせてくれる言葉、とても好きな詩の花です。とても控えめな姿で野に咲くこの美しい花々の歌が、どうか風に運ばれ、詩を愛するひとの心に、耳にそっとささやいてくれますように。

 崎本恵の詩はこちらの私のホームページでも紹介しています。
 詩集『採人点景(さいとてんけい)』から。詩「息」「ほたる」「希い」

 次回からは、もうひとり、私のとても好きな大切な詩人を見つめ、詩想を記します。

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tag : 詩人 高畑耕治 崎本恵

崎本恵の詩(二)。願いに咲き続ける、花。

今回も崎本恵(ペンネーム・神谷恵)の詩を見つめます。今年、野に芽吹き、咲き、揺れている、もう一輪の美しい花です。

 この詩も、読み返してみて、説明はいらないな、と感じます。
 彼女の心の社会への眼差しがより強く表現されている作品です。
 彼女の詩集『てがみ』の前半部には、社会的な弱者、無視され、軽視され、邪険にあしらわれる者の心の目で、不正と悪を告白し立ち向かう強い意思の響いている作品群があって、十数年前に初めて読んだとき、私は強く心を揺すぶられました。
 この詩に今年の秋で会えたことを私はとても嬉しく感じます。花は枯れていない、詩は枯れない、咲き続ける、
そう感じます。詩の花が、根ざし根をのばし芽吹く野の土からすくいあげるもの、それは願いです。願いが涸れない限り花は枯れない、願いの花は人が生きている限り咲き続けます。

  お手をどうぞ
          崎本恵

とろけてしまいそうに柔らかく
真っ白な雪の色をして
それなのに
おひさまのようにあたたかい
あなたのその右の手のひら

あかぎれで
がさがさしたわたしの手を取って
あかるい方へと歩きだす
さあ こっちよ
ここに石ころがあるわ
あ、そっちはとんぼがお休みしてるから
そっと通り過ぎましょ
大丈夫 私がついてるから
きっと大丈夫
まかせておいて
もうすぐ大きな道に出るからね

少女は歌うようにわたしの手を引いている
その瞳に映っているものには
きっと 美も醜も 善も悪もないのだろう

お手をどうぞ
彼女はいまもそう言って
ほほ笑んでいるだろうか
彼女の両親は
ぶっそうな時代だから
その声も手も もう引っ込めて
見て見ぬふりをして 
黙って急いで通り過ぎなさい
そう教えていないだろうか

破壊されました
放火されました
略奪されました
遺体がみつかりました
空母が進水しました
原発が再稼働しました

………

変わってしまった街並みが遠くなるように
お手をどうぞ そう言ってくれたあの神の声が
もう世界のどこにもない現実
言葉は鋭い刃物に姿を変え
わたしの胸に突き刺さったまま走り続けている

降車ボタンを押す
ゆっくりとバスが停まる
降りようとして立ち上がったとき
不意にめまいに襲われたわたしに
年若い運転手が言った

お手をどうぞ

失ったはずの現実の在りかをみつけた
わたしはそんな気がして
見えなくなるまでバスの行方を見守った
変わらないで
そう祈りながら

出典は、ブログ『遠い空へ』。2012年9月30日です。

 崎本恵の詩はこちらの私のホームページでも紹介しています。
 詩集『てがみ』から。詩「生の良心」「病室の海 霊安室から」「てがみ6 神様の石」「茜色のバス停にて」

 次回も崎本恵の詩をみつめ、詩想を記します。

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tag : 詩人 高畑耕治 崎本恵

崎本恵の詩(一)。野に咲き揺れる、美しい花。

 今回からしばらくは私がとても好きな二人の詩人の詩をみつめ詩想を記します。
まず三回に分けて崎本恵(ペンネーム・神谷恵)の三篇の詩です。彼女は私の詩集『こころうた こころ絵ほん』に言葉を寄せてくださった方で、ペンネームでの著作として、心うたれる詩集『てがみ』小説『家郷』をお持ちです。個人文芸誌『糾う(あざな)』でも珠玉の小説を発表されています。
 この記事の末尾に未刊詩篇をリンクしましたが、今年の秋からご自身のブログ『遠い空へ』で、新しい詩を立て続けに公開され、私はとても嬉しく思っています。
 詩がほんとうに良いもの、心うつものであることと、詩集として出版されているかどうかは、まったく別の事柄だと私は考えています。詩集としてまとめ出版し伝えようとするためには、意思と努力と諸条件が必要で容易なことではないので、実現された詩人に私は詩を愛するものとして共感の思いを抱きます。
けれど、さまざまな要因で詩集にできない、野に咲いている花があることを大切に思います。その美しさを見失わず、見つめたいと願っています。

 彼女の詩は、魂の詩、限りなく祈りに近い言葉です。人の痛み、悲しみの歌。痛み、悲しみに寄り添い、そっと置かれる手のひらのよう。
 彼女の詩は、光の詩、その眩しさは、周りを取り巻く闇の深さと一体となって、魂に射し込みます。
 彼女の詩は、優しさ、いたわり、癒しの詩。強権、不正、虚偽に対しては、それらを守り抜くために、立ち向かう言葉です。
 次の詩は、野に咲く花だけれど、私には見つめずにはいられない言葉です。その揺れている姿が、心に焼きついて、心に種となって宿って、私の心にも芽吹き、咲き、揺れ始め、ずっと揺れていてくれる、そんなふうにとても大切に感じてしまう、美しい詩です。
響きあう木魂を聴きとっていただけたら、嬉しいです。

  あなたへ
           崎本恵


私にはともだちなんかいません
まして 私の存在を喜んでくれるひとなんて

あなたはわたしにそういいました
わたしは一晩泣きながら
そのことばをじっと抱きしめました

神さま
存在を喜ばれないひとを
どうしておつくりになったのです!

そのとき かすかな声が聞こえてきました

耳があったら聴いてごらん
目があったらみつめてごらん
鼻があったら嗅いでごらん
手があったら触ってごらん

いつもあなたは真ん中にいる

健やかなときも
病めるときも
死にいくときも
すべてのものがささやいている
輝いている
香りを放っている
在るものをあらしめている

あなたのために
いてくれてありがとうと伝えるひとがいる
わたしのために
いてくれてありがとうとほほ笑む存在がある

なにも持たない
なにも誇れない
なにも飾れない
それでも いてくれてありがとう
そう祈る声がある

友へ 

わたしのこころを届けたい
声なき声はそう語っていました

大切な 友へ
いてくれてありがとう
それは傷だらけになった
止めどない血と涙をしたたらせる十字架のうえから
あなたへ そしてわたしのために流れくる
父への嘆願
かなしみの祈りでした

出典は、ブログ『遠い空へ』2012年9月27日です。

崎本恵の詩はこちらの私のホームページでも紹介しています。
未刊詩篇から。詩「晩鐘」「芽吹き」「利き手はどっち」

 次回も崎本恵の詩をみつめ、詩想を記します。

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詩誌『たぶの木』3号をHP公開しました

 手作りの詩誌『たぶの木』3号を、私のホームページ『愛のうたの絵ほん』に公開しました。
  
   詩誌 『たぶのき』 3号 (漉林書房)

 漉林書房の詩人・田川紀久雄さん編集・発行の小さな詩誌です。
 私は作品を活字にでき読めて、とても嬉しく思います。
 参加詩人は、田川紀久雄、坂井のぶこ、山下佳恵、高畑耕治です。 ぜひご覧ください。

 ☆ お知らせ ☆
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tag : 詩人 高畑耕治 田川紀久雄 坂井のぶこ 山下佳恵 たぶの木

佐相憲一の詩。ひとと詩が好きな、心からの声。

 今年読むことができた心に残る詩集について前回に続き記します。
今回は、詩人・佐相憲一(さそう・けんいち)の詩集『時代の波止場』(2012年12月、コールサック社)です。
 彼はコールサック社で編集者としても詩をひろめる仕事で活躍していますが、その姿に一番感じるのは、彼は詩が本当に好きだな、詩を愛するひとが好きだなという思いです。詩人とはこのような人間じゃないかと私は思います。
 このことと結びついていますが、この詩集を読んで私が一番強く感じ思ったのは「爽やかさ」でした。読んだ後、爽やかな気持ちになれる、何かしら元気を感じとれる、そんな詩集が私は好きです。でもなかなかめぐり合うことはできません。

 苦しいできごと、悲惨な歴史、社会の過酷さ、歪みを直視することは難しいことです。人間の歴史、社会の歪みと矛盾と不正は、昔も今もあふれていますが、為政者は隠し都合で歪曲します。絶望、悲嘆、嘆き、叫びを発して死んでゆくひと、そのひとに寄り添い、押しつぶされ揉み消されようとする良心を掘り起こし声にすること、苦しみ悲しみをともにしたいという願いを抱くひとを私は尊敬し、大切に思います。

 そのうえで、詩人は自分がまだこの世界に生きていこうとするなら、絶望を直視してもその向こうに願いを、暗闇のただなかでも光を、嘆きと苦悶のうちにも微笑みを、疲労と疲弊の底でも童心の歌を、孤絶と格差と差別に凍えながらも友情や思いやりや恋や愛を、探し、見つけ、灯し、浮かべる、そのような言葉をこそ、生み出す者であってほしいと考えています。私自身がそのような書き手でありたいと願います。

 この詩集の中から選んだ詩「恋」は、まずタイトルがいいです。心優しいこの言葉が現代詩にはなかなか見当たりません。
 「ひと と ひと」という言葉に、ひとりひとりの心を感じとるまなざしを、また「女と男」と自然に書く詩人に、「男と女」凝り固まった序列と固定観念を溶かそうとする柔らかな優しい意思を感じて共感します。
 この詩人は子ども好きだから、詩行から子どもの笑顔が輝きだしているのも心が元気づけられます。

 9連で共感するものとして歌いあげられているナマケモノ、カバ、イルカ、ファーブル、画家、無名詩人、平和を唱えた人、愛しあう男女、太陽系に、この詩人の、実利や物欲や力ではない、優しいものたちを見つめ大切に思うこの青年の心のあり方を感じます。だから「爽やか」なのだと思います。

 生きているひとりひとりにとって大切なものは、冷戦や国家、国境、民族のような枠では閉じ込めることができないんだと、もっと自然なこころで生きたいんだという願いを、恋、うた、くちづけ、かなしみ、という体温が伝わってくる言葉を織り込んだ優しい詩句で歌っているこの詩は、とても美しく、良い詩だと私は感じます。

  
        佐相憲一


星から生まれたとは意識しない暮らしの空で
今日、生まれる関係

地球の形をした眼球の海に
まなざしの波
ほほえみの風

ひと と ひと が
向かい合っている

人類なんて意識しない日常の砂浜で
今日、ふたりは人類である

流されたかなしみを流さずに
押しつぶされたくるしみを押しつぶさずに

女と男が
夢を見ている

出会いは本当に偶然の回転だろうか

いくつになっても
小学校の放課後の
チョコレートを渡す女の子の白い歯と
はにかんでありがとうの男の子

愚かという言葉は美しい
樹の上で遠いまなざしのナマケモノのように
水面に顔を出してまばたきするカバのように
いつまでも童顔で海渡るイルカのように
小さな虫の姿におののくファーブルのように
お金にならない絵を描き続けた画家たちのように
何の得にもならない文学にこだわって
ひとの心をしるす無名詩人たちのように
どんな妨害にも平和を唱え続けた人たちのように
どんな時代にも国境越えて愛し合った男女のように
愚直にすすむ太陽系
命のあたりまえを実践することだ

星になるのは死んでからではない
いま女と男が
言葉を発する入り口をくちづけて
存在が体ごとつながる時
星のかなしみが抱きしめられる

朝焼けと夕焼けは
そんな男女の対面のようだ
すれ違っているようで向かい合っている
違うニュアンスのようで同じ太陽に染められる
東西冷戦はありえない
南の空にも北の空にも同じキムチ
日の本も漢字のくにと風でつながる

<愚かなり我が心>
そんな恋のうたがあった
さまざまな音楽家に演奏され愛聴されるのは
兵士が兵士であることを忘れるから
国家人が生活人であることを思い出すから
会社員が人間であることを思い出すから
孤独なひとが恋を思い出すから
恋するひとが自分自身を感じとるから
ひとの心が
生きていることを思い出すから

永遠の混血児たち
地球じゅうにひろがった
ときめきの記憶

今日もまた
新しい恋が
かなしみにくちづけしている


この詩のほかにも、心を揺らしてくれる作品がこの波止場には、波打っています。そのうち、次のような作品が私は特にいいなと感じました。
 詩「帰り道」
 マッチ売りの少女。孤独な北欧詩人の豊かな童話。物語。ひとのこころ。私も敬愛するアンデルセンを思う素敵な詩句が心に響きます。
 詩「波音 Ⅲ」
 詩人の自伝的な作品で、横浜の街、時代の背景に生きた「母さん」への想いに心打たれます。
 詩「波音 Ⅴ」
 大阪弁の詩です。大阪港の波の音のように、心やさしい大阪のこどもたちの元気な声と詩人との会話が聞こえてきます。
 詩「波音 Ⅵ」
 高校時代の国語の先生との、古典を通した心の交流、織り交ぜられた思い出の懐かしい情景はあたたかです。
 詩「夏の匂い」
 恋人との時間に食べ物でふれた隣国、「こんなおいしいものをつくる人たちと戦争は嫌だ」という詩句、昆虫や動物への優しい思いに、とても共感する好きな詩です。

 読み終えて、詩はやっぱりいいな、私は詩が好きなんだ。そう、当たり前に感じさせる力のある、とても良い詩集だと感じるのは、彼の社会的な批評も創作もヒューマニズム、ユマニスムに深く根差していて、さらにそ

れを育んでくれている生き物、宇宙への思いが息づいているからだと感じます。

 次回も、私の好きな詩人の好きな詩を見つめます。

 ☆ お知らせ ☆
『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。

 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。

    こだまのこだま 動画
  
 ☆ 全国の書店でご注文頂けます(書店のネット注文でも扱われています)。
    発売案内『こころうた こころ絵ほん』
 ☆ キズナバコでのネット注文がこちらからできます。
    詩集 こころうた こころ絵ほん
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tag : 佐相憲一 詩人 高畑耕治 詩集

佐川亜紀の詩。やわらかく滋味ある、言葉と行い。

 今回は、心ゆれ願いがふくらむ素晴らしい作品を私のホームページとブログで紹介させて頂いた詩人・佐川亜紀の新しい詩集『押し花』(2012年10月、土曜美術社出版販売)について私が好きな詩を見つめ、詩集に呼び起こされた詩想を記します。

 私が選んだ作品は詩集のなかで一番やわらかな言葉で書かれていますが、この詩人の強い個性である抒情性を失わない社会性と国際性と批評性とを、やはり響かせています。
 そのうえで、この作品の抒情性は、みずみずしい感受性を生きてきた人だからこそ表せる、深みと温かみ知る人のまなざしにあると感じます。
 作品中のとても美しい詩句、「豆腐のような/やわらかく滋味ある/言葉と行い」、この詩句を紡げることが、この詩人の現在を伝えてくれて、私はいいなと、心から感じました。

 もうひとつ私が彼女の詩を好きなのは、歴史に翻弄され虐げられがちな弱い立場に追い込まれた人たちと一緒にいようという意思を抱いて、強い願いを表現していることです。目を背けたくなる歴史におかれた人を書くときにも、彼女の詩には願いが必ず響いています。だから、私の心に伝わってくると私自身の願いと響きあいだし、励まされる思いがします。

 この詩には、この詩人の強い個性とそのような良さが、やわらかく感じとれて、私はとても好きです。

  豆腐往来
         佐川亜紀


からを漉して
もう一度生まれるように
ふはふは
豆乳の湯気たてて
海のにがさを吸い込み
水に泳ぎ
初めての頬ずりみたいに
そっと手にとる
白肌のゆらめき
奴になって
切られて食われてやらあ

中国から伝わった豆腐
中国の麻婆豆腐も
朝鮮の豆腐チゲもちょっと辛い
あっけなく崩れる
人の肉体のように
赤い汁がしみ込む
おばあさんおじいさんたちの
歴史の苦労も辛い
日本の淡白な舌は
辛味を味わい難いのか

病気の喉にも通りがいい
病んだ世界に欲しいのは
国と国とを
往来する
豆腐のような
やわらかく滋味ある
言葉と行い

 この詩集に収められた他の作品で、上述した個性と良さが心に響いた詩を記します。

詩「ヒロシマの眼」
 父の生き方、父への思いを通して書かれているからこそ、ヒロシマ、韓国の被爆者、イラクの少女に馳せる思いと願いは心に響きます。

詩「体温」
 子供たちを通して、祖父を通して、阪神淡路大震災で亡くなった方の悲しみに思いを馳せ、生きること、死ぬことをみつめるまなざしに、私の心も重なります。

詩「セロリの別称」
 朝鮮と日本の歴史を見つめなおすこだわりを、私は大切だと思います。

詩「生命の目盛」
 ヒロシマ。ナガサキ。フクシマ。生命。地球。これらを空疎なスローガンや政治のアジテーションではなく、詩の言葉で作品として、感受し表現し伝えることは、とても難しいことですが、この詩人の願いの偽りのない強さが、詩として響いていると、私は感じます。

 今回の詩集には私がとりあげたこれらの作品のほかに、能を取り入れようとした意欲的な作品や、言語による思考を暗喩の駆使によって極めようとする「現代詩」的な作品群があります。詩人としての豊かさを広げるための努力をされていると私は感じました。おそらく現代詩壇では、より知的なこれらの作品を評価する方々が大多数だと私は思います。私の感受性、詩についての好み、考え方は、詩壇ではたぶん特殊です。

 詩を愛する人、詩を好きな人というより豊かな拡がり、視野でみつめたときには、詩人・佐川亜紀の強い個性と魂の輝きは、私が好きな作品たちにこそあって、詩を書かれない読者にも共鳴を生むのではないかと私は思います。
 彼女はこのことを理解されつつ幅広く活動されていらっしゃるので、心をつつむやわらかな滋味をこれからも深め伝えてくださいと、私の願いを最後に記します。

 次回も、今年読むことができ、心に残り、詩想をよび起こされた詩集の詩をみつめます。

 ☆ お知らせ ☆
『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。

 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。

    こだまのこだま 動画
  
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