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新川和江の詩。詩は花。ひばりのように、歌え。

 近代詩が生まれた明治時代からの約百年間に創られた女性の詩人の詩をみつめなおしてきました。。
 『ラ・メール 39号、特集●20世紀女性詩選』(1993年1月、編集発行人:新川和江・吉原幸子、発売:思潮社)に採録されている詩人の一作品・一輪の花たちのなかから、私が好きな、木魂する思いを揺り起こされる詩について、詩想を記してきましたが、今回が最終回です。

 今回の詩人は、新川和江(1929年昭和4年生まれ)です。
 前回の吉原幸子とともに詩誌『現代詩ラ・メール』(1983年~1993年)を編集発行し『特集●20世紀女性詩選』で忘れさられようとしていた優れた女性詩人の、心打つ良い詩を伝えてくれた仕事はかけがえのないものだと思います。

『ローマの秋・その他』『ひきわり麦抄』『けさの陽に』『はたはたと頁がめくれ…』など多くの詩集を出版しています。

 最終回の今回も、私の好きな詩を選びました。
 最初の1篇は『現代日本 女性詩人85』(高橋順子編著、2005年、新書館)から、底本は『新選新川和江詩集』です。

 抒情詩は言葉の花、心の花です。そのことを教えてくれる詩。やさしい言葉で、優しい心を咲かせる花。
 花に寄り添い、花を見つめ花の心をかたり、歌いあげる最終連は、とくに美しく、私は好きです。
 

 サフラン
          新川和江


さびしい人から
さびしさを引いた数だけ
サフランは ひらきます

木に咲く花のように
高い梢を 知りません
小鳥が飛んできてとまる
てごろな枝も 持ちません
束ねてリボンをかけようにも
ほどよい茎さえ ありません

でも 地にひくく咲くゆえに
空の深みにおいでのお方を
まばたきもせず
見つめることができるのです
あの方は一りん一りんに
ひかりのまなざしを注いでくださいます

たくさんのさびしさよ
サフランとなって 咲きなさい
サフランと咲いて 癒えなさい


 2、3篇目の作品の出典は『新川和江詩集』(2004年、ハルキ文庫)です。
 この本にはほかにも、男女の、人間の愛を歌うことが詩だと伝えてくれる詩「地上の愛」など、好きな心に響く詩がいろんなところに咲いていました。

 次の歌は、女を、母を、子どもを、宇宙と自然に感応する、いのちとして、歌いあげた、心にとても響く作品です。このように歌える詩人だからこそ、『特集●20世紀女性詩選』という美しい心の歌の花束を編めたのだと感じます。

  
       新川和江


はじめての子を持ったとき
女のくちびるから
ひとりでに洩(も)れだす歌は
この世でいちばん優しい歌だ
それは 遠くで
荒れて逆立っている 海のたてがみをも
おだやかに宥(なだ)めてしまう
星々を うなずかせ
旅びとを 振りかえらせ
風にも忘れられた さびしい谷間の
痩(や)せたリンゴの木の枝にも
あかい灯(ひ)をともす
おお そうでなくて
なんで子どもが育つだろう
この いたいけな
無防備なものが


 最後に選んだのは、彼女の出発点、詩を生み始めた時の詩です。
この詩人は、詩は歌であることを知っていて、教えてくれます。詩人は「いのちの限りうたふ」人間、「胸はりさけて死んだとて」それでよいと、歌う人間。
 この真実をいえる詩人に出会えて、心から嬉しく思います。私もそう思い歌いはじめ、歌い続けている「ひばり」だからです。

 この詩心を抱き続けている人が詩人です。心みつめる人、感受性あふれて、歌う人、歌いたい人、歌が好きで歌に耳澄ませ心ゆらす人、その誰もが詩人です。
 詩は専門家や芸人の独占物でも賞争いの競技種目でもありません。
 あたりまえの、ほんとうの、大切なことを、伝え続ける、この詩人は、本当に詩が好きなんだと、私は思います。
 私も詩が、歌が、好きでたまりません。ひばりの様に、ただ歌い続けたいと願っています。


  ひばりの様に
          新川和江


ひばりの様にただうたふ
それでよいではないですか

からすが何とないたとて
すずめが何とないたとて

ひばりはひばりのうたうたふ
それでよいではないですか

いのちの限りうたひつつ
ゆうべあかねの雲のなか

胸はりさけて死んだとて
それでよいではないですか


 続けて書いてきました女性の詩人の詩についてのエッセイの最後に、ここにとりあげられなかった優れた詩人、心打つ詩は、いたるところに咲いていることを忘れてはいけないと思います。押しつけがましくない優しい心はひっそり咲いていて、私がまだ気づかずにいるだけです。

 これからも、女性の詩、男性の詩、心うつ人間の詩をみつめ揺り起された詩想を自由に書き、手渡していきたいと思います。


 ☆ お知らせ ☆
『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。

 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。

    こだまのこだま 動画
  
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「純心花」
2022年イーフェニックス
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年イーフェニックス
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年土曜美術社出版販売
「愛(かな)」1993年土曜美術社出版販売
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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